東京地方裁判所 平成12年(ワ)7313号 判決
原告 有限会社コグレハウジング
右代表者代表取締役 小暮義雄
右訴訟代理人弁護士 森山満
被告 小木寅光
被告 吉田和美
右被告ら訴訟代理人弁護士 狐塚鉄世
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告小木寅光は、原告に対し、別紙物件目録二記載の建物を収去して同目録一記載の土地を明け渡し、かつ平成一二年三月二二日から右明渡ずみまで一か月金四万円の割合による金員を支払え。
二 被告吉田和美は、原告に対し、別紙物件目録二記載の建物から退去して同目録一記載の土地を明け渡せ。
第二事案の概要
本件は、原告が、土地所有権に基づき、その地上建物を所有ないし占有している被告らに対し、建物収去土地明渡及び賃料相当損害金の支払い、若しくは建物退去土地明渡を求めた事案である。
一 当事者間に争いのない事実
1 別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)は、もと吉田孝(以下「孝」という。)が所有していたところ、平成一一年五月二六日当庁において競売開始決定がなされ(当庁平成一一年(ケ)第二〇六八号不動産競売事件)、原告が平成一二年三月二一日本件土地を競落し、同月二二日その旨の所有権移転登記が経由された。なお、右競売事件は、孝が平成一〇年一〇月八日株式会社あさひ銀行から本件土地購入等のため七五〇〇万円を借り受け、その保証をあさひ銀保証株式会社に委託し、同社の求償債権を担保するため、同月二〇日付けで設定された抵当権の実行として申し立てられたものである。
2 被告小木は、平成一一年二月一日、孝から期間を五年と定めて本件土地を賃借し(被告小木の本件土地についての賃借権を、以下「本件賃借権」という。)、本件土地上に存する別紙物件目録二記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有して本件土地を占有している。また、被告小木は、同年三月一四日、孝の妻である被告吉田に本件建物を賃貸し、被告吉田は、その子供らと共に本件建物に居住している。
二 本件の争点
本件の争点は、被告小木の本件賃借権が濫用的短期賃貸借といえるか否かである。
1 原告の主張
被告小木は、本件建物の建築を依頼した孝に対して請負代金債権を有するところ、前記抵当権の実行が近いことを察知して、孝や被告吉田と通謀し、抵当権の実行を妨害する目的をもって、本件建物を被告小木が譲り受け、かつ本件賃借権を設定した上、本件建物を賃貸して、建物賃料名目で右請負代金の回収を図ったものである。
したがって、被告小木の本件賃借権は、抵当権者を不当に害し、短期賃貸借制度の本来の趣旨に反するもので、濫用的短期賃貸借といえるから、本件土地の競買人である原告に主張できないものである。
なお、本件土地の賃料相当額は、月額四万円を下らない。
2 被告の主張
原告の右主張は争う。
仮に被告小木の本件賃借権が原告の主張するように抵当権者を不当に害するものであるとすれば、抵当権者としては、民法三九五条但書に従い、その賃貸借契約の解除を請求できる。本件の場合、抵当権者のあさひ銀保証株式会社がそうした手段を取らなかった以上、本件賃借権は、抵当権者に対抗でき、ひいては本件土地の競買人である原告にも対抗できるというべきである。
第三争点に対する判断
証拠(甲三、四)によれば、
<1> 孝は、銀行から資金を借り受けて、本件土地を購入し、更に工務店を営む被告小木に依頼して本件建物を建築しようとしたが、金策に窮し、被告小木に対し、請負代金として三〇〇万円を支払っただけで残額の支払いができなくなったこと、
<2> 被告小木は、平成一〇年、孝を相手方として東京簡易裁判所に即決和解を申し立て、平成一一年二月一日、本件建物の建築請負契約を平成一〇年一二月二〇日付けで合意解約し、本件建物の所有権を被告小木に譲った上、被告小木の負担でもって本件建物を完成させる、孝は、被告小木に対し、賃料月額四万円、敷金及び保証金等はなしとの条件で本件土地を賃貸する旨の和解が成立したこと、
<3> 被告小木は、被告吉田に対し、平成一一年一月下旬ころ完成した本件建物を賃料月額二四万円、敷金一二〇万円との条件で賃貸し、本件建物には、被告吉田が子供らと共に居住していて、夫の孝は別居して生活していること、
<4> 本件土地の賃料は、被告小木から孝の銀行口座宛に毎月振り込まれ、本件建物の賃料は、被告吉田から被告小木宛に支払われていること、
<5> 本件土地に係る前記競売事件においては、被告小木の本件賃借権(短期賃借権)が有効に存在するものとして、本件土地の評価が行われ、その更地価格から短期賃借権減価として三〇パーセントが控除されるなどした上、最低売却価額三三九七万円が決定されたほか、物件明細書にも、買受人が引き受ける対象の権利として記載されていること、
以上の事実を認めることができる。
右認定に鑑みれば、被告小木は、孝に対して、相当額の本件建物建築に係る請負代金債権を有していたことが伺えるところ、完成途中の本件建物を譲り受けたり、かつ本件建物を別居中であるとはいえ孝の妻である被告吉田に賃貸し、本件土地の賃料との差額に相当する月額二〇万円の金員を得ていることからすると、原告が主張するように、被告小木は、本件賃借権の設定を受けるなどした上、未回収の請負代金債権を回収する意図を有していたことが推認できるというべきであり、孝も、少なくとも被告小木のこのような意図を了知していたものと考えられる。
しかし、抵当権設定者は、抵当権者に損害を及ぼすなどの事情がない限り、民法六〇二条に定めた期間を超えない範囲で担保物件を賃貸に供し、これを利用することができるのであるから(民法三九五条)、その相手方が自己の債権者であり、当該債権者が債権回収の意図を有していたからといって、一概に賃貸借が濫用的であるとして、その効力が否定される謂われはない。そのような短期賃貸借をして濫用的であるというためには、賃料が余りに低額であったり、賃料に比して高額な敷金や保証金が授受されていたりして、担保物件の真の利用を目的としたものとは考えられず、抵当権者や物件の買受人に不当な損害を及ぼすことにより、短期賃貸借の保護を嘔った民法三九五条の趣旨を没却するような事情がなければならない。
ところで、本件においては、被告小木は、右のとおり債権回収の意図を有していたものと考えられる反面、完成途中の本件建物を孝から譲り受けた上、同被告の負担でもって本件建物を完成させているから、本件建物を賃貸して賃料の差額分を取得することは、被告小木にとって、自己の投下資本を回収する意味合いもあり、本件賃借権の設定等が債権回収の目的のみをもってなされたとはいえない。また、本件土地の賃料が不相当に低額であるとは認められない上、敷金や保証金の授受はなされておらず、その他賃料が全額前払いされていたり、被告小木の債権と相殺されているといった事情もない。したがって、これらを合わせ考慮すると、本件賃借権が、抵当権者は勿論、本件土地の賃貸人の地位を承継する原告に不当な損害を及ぼすとは到底認められない。
以上の次第であるから、被告小木の本件賃借権につき、濫用的であると評価することはできないし、その効力を否定することもできないというべきである。
よって、原告の本件請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。
(裁判官 内藤正之)
物件目録
一 所在 目黒区南一丁目
地番 一五〇〇番一二
地目 宅地
地積 一三三.八八平方メートル
二 所在 目黒区南一丁目一五〇〇番地一二
家屋番号 一五〇〇番一二
種類 居宅
構造 木造スレート葺二階建
床面積 一階 六七.三四平方メートル
二階 五九.三四平方メートル